ATP賞テレビグランプリ
☆ATP2009新人賞総評
 

東京ビデオセンター ディレクター 木村 純子
★1999年 「ザ・ノンフィクション/東京芸者物語」(CX)で新人賞受賞

「メイちゃんの執事」のプロデューサーとして新人賞に選ばれた橋本さん、オリジナル脚本でドラマの演出をした阿由葉さん、二人とも新しいことへ挑戦するその意欲を感じた。

おしくも落選してしまったが、「偉人の子孫が案内人!ご先祖様 お墓参りツアー」を演出した大塚さん。この作品は、偉人の子孫を案内役にしたところ、特に夏目漱石の子孫がHip Hopのミュージシャンをしていて、漱石の作品をモチーフにHip Hopを歌わせる、という演出は独創的で印象深かった。また、タレントたちのリアクションが自然で演出が過剰になっておらず、演出側が現場の自然な空気感を作り出していると感じた。見終わった時にお墓参りがしたくなる、お墓が有難くなるという気持ちにさせられた。

今回ドキュメンタリーの作品が選ばれなかったのは残念だが、それは小さくまとめてしまった作品が多いからではないか、と思った。番組の出来よりも、ディレクターの “勢い”のようなものを感じたかった。「四川大地震 被災地は今 観光村騒動記」人間の本性がむき出しになったところがよく撮れていたが、厳しい見方をすれば、素材に溺れてしまった感がある。「アタラシイキズナ 河川敷のグラウンドから」も、良いシーンは撮れているのに、それを活かしきれていない。どちらも若いディレクターが現場で、編集で苦悩している空気が削り取られてしまった、という印象を受けた。番組にキレイな落ちやナレーションをつけるよりも、破たんしてもいいから何かを訴えて欲しかった。しかし、そうした冒険ができなくなっているのは、若いディレクター自身の問題だけではなく、周囲のプロデューサー、アドバイスするディレクターたちにも原因があるのではないか、と自戒も含め思った。

そんな中、「夢の扉“非行・不登校・引きこもり 肝っ玉寮母の奮闘”」は、番組のカラーに引きずられずに、粘り強い取材で主人公のキャラクターを発見し、描き出していたと思う。今後に期待したい。


株式会社 テレビマンユニオン プロデュ-サ- 佐野達也
★2002年 「NONFIX/一億総個性化計画」(CX)で新人賞受賞

授賞するチャンスは今後いくどもあるが、新人賞は人生で一度しか授賞することが出来ない。だからこそ、そんな貴重な賞を授賞したふたりに、おめでとうと言いたい。

新人賞を逃した方々にも一言。新人賞なんてオヤジたちが上から目線で授ける賞。今後チャンスはあまたあるので、自分を信じて精進して欲しい。僕もむかし同賞を受賞させていただいた口なのだが、すっかり鼻持ちならない奴になって苦い経験をした覚えがある。

さて、授賞を逃した皆さんに一言ずつ感想を。浅野麻由さんの「アジアンスマイルふたりは学生デザイナー」。丁寧な取材が浅野さんの持ち味。惜しむべきは、なぜ『ふたり』なんだ?という疑問が残ったこと。ここに切り込めば番組としてもっと『色』が出たはず。

大塚真史さんの「偉人の子孫が案内人!ご先祖お墓参りツアー」は企画力とアイデアが面白い。クレーンを使ってお墓を撮るなんてバカなことは(良い意味で)きっと大塚さんにしかできない。1時間を引っ張りきるにはもう1アイデア必要だったかも。

牧島庄司さんの「BS世界のドキュメンタリー四川大地震、被災地は今」は非常に完成度が高かった。被災地の現状、そこで暮らす人々の悲喜こもごもに目頭を熱くした。ただ欲を言えば、そこに牧島さんの視点というか主観というかをもっと見たかった。新人賞とは番組の完成度を見る以上に、作り手の『色』を評価する場のように思う。

中村祐子さんの「クエスト探求者たち アートディレクター森本千絵」。取材対象者も魅力的で番組の構成も良く、1時間ひき込まれた。ただこちらも同上で、既視感は否めない。 池山珠子さんの「アタラシイキズナ河川敷のグランドから」。初心に帰らされた。テレビ的なショーアップの世界では光の当らない地味な現場だが、十分に存在感がある。惜しいのは「こういうところに取材したら、こういう仕上がりになる」という範囲をもう少し越えて欲しかった点。

二田靖章さんの「夢の扉 非行、不登校、引きこもり 肝っ玉寮母の奮闘」。レギュラー番組の宿命か、二田さんの荒削りさ(良い意味で力強い素材)がナレーションと編集でまとめられた感。番組とは商品。テレビ番組を作ることの難しさを思う。

坂本彩さんの「ヒミツのちからんど アートとからだを合体!パフォーマンス」。難しい番組に若くして挑んだことに敢闘賞。「若くして挑んだ」感がエネルギーとなって好転した部分もあれば、経験不足として現れてしまった部分もあるように思う。

総括して、前述したんだけども新人賞とは番組の完成度を見る以上に、作り手の『色』を評価する場のように思う。若さゆえの無謀さとエネルギーに満ちた番組に出会いたい。「こいつの頭のなか面白い」そう思わせる番組に出会いたい…。そういう意味で今回の応募作品は、卒なく見やすくツルリと仕上りすぎていたように思う。でもなんだかそれは、制作者が不在なわけで、物足りない感じがしてしまった。

えらそうに書き連ねましたが、若い皆さんの今後に期待してます。お疲れ様でした。


株式会社 グループ現代 ディレクター 芹田洋
★2001年「NONFIX/30泊31日21人の子どもたち」(CX)で新人賞受賞

新人賞応募作品全9作品。見終わっての感想は、「とてもまとまっている」「上手に出来ている」ということだった。「斬新」であったり「野心的」であったりすることが、番組作り上難しくなっているのか。ひるがえって自分の作品作りはどうなのか。考えさせられた。そうした中で、受賞作品の2つのドラマは、嬉しくも(楽しくも)「野心的」であったように思える。惜しくも受賞を逃した作品の中で私の印象に残ったのは以下の4作品。

「アジアンスマイル ふたりは学生デザイナー」
親友である2人のデザイナーの卵の活動を、コンテストへ向けての時間軸に沿って、うまく物語に仕上げた。それぞれの得意分野と性格の色分け、それがどうぶつかるのか、そして勝敗の行方は。見所の積み方が面白かった。ただ、構造はよく分かったのだが、2人の登場人物の関係性を、更にはそこを浅野さんがどう見つめていたのか、見たかった。

「BS世界のドキュメンタリー 四川大地震 被災地は今」
導入はしごくドライに被災地の現状を説明していく。できれば前半から、牧島さんが見つけたキャラクターを大切に使って、こだわって、ドラマを紡いでいって欲しかった。後半にかけての人間模様は、中国というお国柄、未来に希望を託すからこその不満、妹を思う姉の気持ちなど、よく取材されていて、説得力を持って迫ってきた。

「夢の扉〜NEXT DOOR“非行・不登校・引きこもり 肝っ玉寮母の奮闘”」
二田さんが、かなり長い時間をかけて密着していたことが伝わってきた。難しい題材と向き合い少年少女たちの心を開いていったのだろう。こうした題材と向き合う時、ふるえるような瞬間が訪れるもの(だと勝手に思っている)。その瞬間がどこだったのか、分からなかった。実は、そこは使っていないのではないか、別の登場人物だったのではないかと邪推したくなるほど、あっさりとした大団円だったように感じられた。

「アタラシイキズナ 河川敷のグラウンドから 湘南ベルマーレ女子ソフトボールチーム」
恵まれないソフトボールチーム、湘南ベルマーレにまつわる人間模様を見つめる池山さんの視線は、いつも暖かい。優しい気持ちにさせてくれる作品。私がひねくれ者なのかもしれないが、何で全員良い人で、未来に希望を持っているのだろうと思ってしまった。池山さんにも、彼女らにも、もっともっと葛藤(物語の抑揚?)して欲しかった。

こうして書いてみると、なんのことはない、全てドキュメンタリーだ。ドキュメンタリーが新人賞をとれなかったのがよほど悔しかったのかもしれない。いろいろ偉そうに言ってしまいましたが、これからも、私も含めて、作品に向き合って行きましょう。


テレコムスタッフ株式会社 ディレクター 平田 潤子
★2005年 「今、わたしがここに在るということー三代の恋物語 第4回」(スカパー216)で新人賞受賞

応募作品はドラマ・ドキュメンタリー・情報バラエティとジャンルが様々でありながら、奇しくも受賞された二名ともドラマ作品での受賞となった。しかし選外の作品にも見ごたえのあるものは多く、特に印象に残ったものから。

若手の登竜門「アジアンスマイル」でタイの学生デザイナーを追いかけた浅野麻由さんの「ふたりは学生デザイナー」は、ファッションショー本番までの一週間、という限られた取材期間をうまく利用した企画で、二人を主人公にした対象の選び方が見事。欲を言えばもっと踏み込んで、二人の関係やディレクターの姿が思わず見えるような“濃い口”の取材でも良かったのでは。

「偉人の子孫が案内人!ご先祖様お墓参りツアー」は“墓参り”という渋いコンセプトをバラエティにした企画のオリジナリティは秀逸だったが、墓参り以外の内容にもう一声欲しかったという意見も出た。

BS世界のドキュメンタリー「四川大地震 被災地は今 第三回観光村騒動期」はまさに起きていることの面白さに引き込まれて見た。焦点の絞り方など問題点は指摘されたが、現場でそれを日々模索し続けた末に出来上がった番組なのだろうな、と右往左往する?ディレクターの姿はしっかり伝わってきた。終盤、ルポルタージュから、俄然寓話性を帯びた物語へ変貌する予感を感じさせて番組が終わった感がしたので、取材期間という限定性があるからこその醍醐味もあるが、この番組に関しては一年後二年後の村の様子が見たいと思ってしまった。

「アタラシイキズナ 河川敷のグラウンドから」は“キズナ”をテーマにソフトボールチームの選手と彼らを支える地元の人たちの交流を描いた秀作。ただ構成編集があまりに満遍なく端正であるため、新人ならではの“これを描きたかった!”というこだわり点が見えてこなかったのが残念。

その点「夢の扉」で元非行少年たちを引き受ける寮母さんを描いたニ田靖章さんは、この枠にしては珍しく“情報”ではなくアンバランスでもあえて泥くさい人間ドキュメントで勝負した感じに引き込まれた。おそらく出口の見えなかったであろう長期取材に果敢に挑戦したニ田さんの次回作に大いに期待したい。

「GAP THE BAG~バッグをはさんで~」は“オリジナル脚本”という点を評価しての受賞。「わたしが始めて創ったドラマ」というこの企画の勝利というべきかもしれず、今後もこの枠からの作品が楽しみ。(個人的には電車の中の“音”に臨場感がないのが残念だった。)力作がありながらドキュメンタリー作品はいま一歩で受賞に至らず、ドラマ2本とは寂しいという声もあった。受賞を逃した人もぜひまた再挑戦してほしい。


「ATP賞テレビグランプリ2009」新人賞 審査委員

ディレクター
木村 純子(東京ビデオセンター)
プロデュ-サ-
佐野達也(テレビマンユニオン)
ディレクター
芹田 洋(グループ現代)
ディレクター
平田 潤子(テレコムスタッフ)
(敬称略)

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