作品の寸評の前に、前年度からの若干の変更を簡単に触れておく。 ★まず「バラエティ部門」と「情報番組部門」を「情報バラエティ部門」に統一した。以前から“応募数の偏り”や“情報とバラエティの差異”とは?など疑問が指摘され、「ドラマドキュメンタリー」やジャンルを越境する作品もある。むしろこれからの「ATP賞」はそうした既存のジャンルを超える斬新な作品を評価すべきで、「将来的にはノンジャンルで…」という方向を確認しつつ、今回は3部門に戻し選考した。 ★さらに「ATP賞」自体の価値を高めるため、これまで「賞状」による顕彰のみであった「優秀賞」を今期からブロンズ顕彰する。そのかわり昨年まで20本程度選んでいた本数を3分の2に減らした。つまり例年よりもハードルの高い「狭き門」となった。 以下受賞作の寸評を記す 《ドラマ部門》の優秀賞は3作。「長生き競争!」(共同テレビジョン/東海テレビ)「老い」や「死」への不安を、暗くシリアスにならず軽妙に描いたコメディ。主人公の老人(宇津井健)と“アラフォー”の娘、“フリーター”の若い女性との絡みで、単なる「老人問題」ではない複合的なテーマを浮かび上がらせた。「キャットストリート」(テレパック・NHKエンタープライズ/NHK総合)舞台は、“ひきこもり”の若者が集う“フリースクール”。谷村美月、勝地涼など若手演技派の好演で、青春の戸惑いや切なさを爽やかに描いた。「春さらば~おばあちゃん 天国に財布はいらないよ~」(ザ・ワークス 博報堂DYメディアパートナーズ/テレビ東京)の主人公(夏川結衣)は、老人の信頼を集める有能な介護士だが、実は詐欺師。単純な善悪を超えた彼女の魅力と老人たち(原田芳雄、市原悦子ほか)の絶妙な駆け引きが光る。最優秀賞は「空飛ぶタイヤ」(東阪企画/WOWOW)“リコール隠し”というリアルで複雑な問題を、零細企業の社長と従業員の奮闘、大企業の内部の駆け引きを中心に、雑誌記者、警察、政治家など多様な立場の登場人物を絡ませ、知的で重層的な群像劇を紡ぎあげた。 《ドキュメンタリー部門》の優秀賞は5作。「初女さんのおむすび~岩木山麓ぬくもりの食卓~」(テレコムスタッフ・NHKエデュケーショナル/NHK BS-hi)地元の素材にこだわった料理で、病んだ心を癒す、カリスマ=佐藤初女の四季を丹念に描いた作品。素朴な料理を作る手触りや温もりに敬虔な“祈り”を感じる。「天空のロストワールド~南米アマゾン・ギアナ高地 地球創世の記憶~」(テレビマンユニオン/テレビ朝日)南米の秘境ギアナ高地とアマゾンを、大沢たかお&蒼井優が別ルートで辿ってゆく壮大なアドヴェンチャー。かつての“ネイチャリング”や“ウルトラクイズ”の馬鹿馬鹿しいほどのスケール感が心地よい。「いのちの声~コロンビア誘拐被害者へのラジオ放送~」(ドキュメンタリージャパン・NHKエデュケーショナル/NHK BS-1)コロンビアの反政府ゲリラが繰り返す営利目的の誘拐。囚われた人々の唯一の希望が「ラジオ放送」だ。なぜ私たちは「北朝鮮の拉致被害者」に電波は届けられないのか?メディアの役割と本質的な在り方が問われる力作。「全身漫画家~真説・赤塚不二夫論~」(クレイジーダイアモンド・NHKエンタープライズ/NHK教育)“奇才・赤塚不二夫”の魅力と真実をさまざまな証言と事実を丹念に積み上げ、クールに浮かび上がらせる演出の力量が際立つ。 「メディアリテラシー特番~タブーな番組企画会議~」(テレコムスタッフ/テレビ東京)は右翼代表、反体制的ミュージシャンや作家など6人の異能者が「タブーな番組」を企画することを通し、「テレビ」の問題や限界を掘り下げる「合宿討論」。最優秀賞は「シリーズ四川大地震 被災地は今 第2回李先生と30人の子どもたち ~紅白中心中学校~」(テムジン・NHKエンタープライズ/NHK BS-1)大地震で家族を失ったトラウマを抱える子どもたちを、温かく力強く支える李先生。実は彼女も地震で一人娘を失っていた。互いを支えあう先生と子供たちの心のふれあいに感涙! 《情報バラエティ部門》の優秀賞は5作。「ワンステップ!~電気店のない島~」(スタッフラビ/TBS)は、電気店がない離島に、工業大学の学生が出張修理を買って出る。「人見知り」なオタク系の学生たちが島民たちのコミュニケーションを通して「技術」=「人を喜ばせること」という本質的な意味に気づいてゆく。「美味いは京都~料理人たちの挑戦~」(ザ・ワークス/讀賣テレビ)「京都」と「パリ」=世界の食文化の都を、それぞれの料理人が行き来し、コラボしてゆく。特にカリスマ・シェフ=ピエール・ガニエールが、老舗割烹の厨房や農家の台所に入り込んでゆくさまは秀逸。「絵金伝説~幕末土佐を生きた闇の絵師~」(かわうそ商会・NHKエデュケーショナル/NHK BS-2)「絵金」という幕末に活躍した謎の絵師。そのドロドロとした奇妙な魅力を、夏海カメラマンの映像が闇の中に浮かび上がらせる。「ズームイン!!サタデー!スピンアウト~外国人から見たサプライズ日本~」(日テレアックスオン/日本テレビ)ワイドショーの人気企画をまとめただけの番組だが、外国人へのインタビューだけで「日本」を見事に描き出す。「アレ今どうなった?」(クリエイティブネクサス・NHKエンタープライズ/NHK総合)「ヒルズ族」「負け犬」「西鉄バスジャック事件」…かつて世間を騒がせた事件や現象を再検証するシリーズ番組。眼の付け所はイイだけに、スタジオトーク以外の手法はなかったか?最優秀賞は「笑劇開演 ~小林賢太郎テレビ~」(NHKエンタープライズ/NHK BS-hi)稀代のパフォーマー・小林賢太郎の「斬新でシュールな笑い」を、おそらく小林自身が企画から参加し、大胆に映像化した。そのストイックに「笑い」を追及する姿勢に、かつての「ゲバゲバ」や初期の「ドリフ」「コント55」「タモリ」…のような懐かしささえ感じる。 最後に昨年来の“不況”による厳しい制作環境の中で、素晴らしい作品を創り出した制作者全員の意欲と創意工夫に敬意を表したい。「困難な時代」は、何か「新しいことの始まり」でもある。その「萌芽」は確実に感じられた一年だった。
「ATP賞テレビグランプリ2009」審査委員
作品の寸評の前に、前年度からの若干の変更を簡単に触れておく。
★まず「バラエティ部門」と「情報番組部門」を「情報バラエティ部門」に統一した。以前から“応募数の偏り”や“情報とバラエティの差異”とは?など疑問が指摘され、「ドラマドキュメンタリー」やジャンルを越境する作品もある。むしろこれからの「ATP賞」はそうした既存のジャンルを超える斬新な作品を評価すべきで、「将来的にはノンジャンルで…」という方向を確認しつつ、今回は3部門に戻し選考した。
★さらに「ATP賞」自体の価値を高めるため、これまで「賞状」による顕彰のみであった「優秀賞」を今期からブロンズ顕彰する。そのかわり昨年まで20本程度選んでいた本数を3分の2に減らした。つまり例年よりもハードルの高い「狭き門」となった。
以下受賞作の寸評を記す
《ドラマ部門》の優秀賞は3作。「長生き競争!」(共同テレビジョン/東海テレビ)「老い」や「死」への不安を、暗くシリアスにならず軽妙に描いたコメディ。主人公の老人(宇津井健)と“アラフォー”の娘、“フリーター”の若い女性との絡みで、単なる「老人問題」ではない複合的なテーマを浮かび上がらせた。「キャットストリート」(テレパック・NHKエンタープライズ/NHK総合)舞台は、“ひきこもり”の若者が集う“フリースクール”。谷村美月、勝地涼など若手演技派の好演で、青春の戸惑いや切なさを爽やかに描いた。「春さらば~おばあちゃん 天国に財布はいらないよ~」(ザ・ワークス 博報堂DYメディアパートナーズ/テレビ東京)の主人公(夏川結衣)は、老人の信頼を集める有能な介護士だが、実は詐欺師。単純な善悪を超えた彼女の魅力と老人たち(原田芳雄、市原悦子ほか)の絶妙な駆け引きが光る。最優秀賞は「空飛ぶタイヤ」(東阪企画/WOWOW)“リコール隠し”というリアルで複雑な問題を、零細企業の社長と従業員の奮闘、大企業の内部の駆け引きを中心に、雑誌記者、警察、政治家など多様な立場の登場人物を絡ませ、知的で重層的な群像劇を紡ぎあげた。
《ドキュメンタリー部門》の優秀賞は5作。「初女さんのおむすび~岩木山麓ぬくもりの食卓~」(テレコムスタッフ・NHKエデュケーショナル/NHK BS-hi)地元の素材にこだわった料理で、病んだ心を癒す、カリスマ=佐藤初女の四季を丹念に描いた作品。素朴な料理を作る手触りや温もりに敬虔な“祈り”を感じる。「天空のロストワールド~南米アマゾン・ギアナ高地 地球創世の記憶~」(テレビマンユニオン/テレビ朝日)南米の秘境ギアナ高地とアマゾンを、大沢たかお&蒼井優が別ルートで辿ってゆく壮大なアドヴェンチャー。かつての“ネイチャリング”や“ウルトラクイズ”の馬鹿馬鹿しいほどのスケール感が心地よい。「いのちの声~コロンビア誘拐被害者へのラジオ放送~」(ドキュメンタリージャパン・NHKエデュケーショナル/NHK BS-1)コロンビアの反政府ゲリラが繰り返す営利目的の誘拐。囚われた人々の唯一の希望が「ラジオ放送」だ。なぜ私たちは「北朝鮮の拉致被害者」に電波は届けられないのか?メディアの役割と本質的な在り方が問われる力作。「全身漫画家~真説・赤塚不二夫論~」(クレイジーダイアモンド・NHKエンタープライズ/NHK教育)“奇才・赤塚不二夫”の魅力と真実をさまざまな証言と事実を丹念に積み上げ、クールに浮かび上がらせる演出の力量が際立つ。
「メディアリテラシー特番~タブーな番組企画会議~」(テレコムスタッフ/テレビ東京)は右翼代表、反体制的ミュージシャンや作家など6人の異能者が「タブーな番組」を企画することを通し、「テレビ」の問題や限界を掘り下げる「合宿討論」。最優秀賞は「シリーズ四川大地震 被災地は今 第2回李先生と30人の子どもたち ~紅白中心中学校~」(テムジン・NHKエンタープライズ/NHK BS-1)大地震で家族を失ったトラウマを抱える子どもたちを、温かく力強く支える李先生。実は彼女も地震で一人娘を失っていた。互いを支えあう先生と子供たちの心のふれあいに感涙!
《情報バラエティ部門》の優秀賞は5作。「ワンステップ!~電気店のない島~」(スタッフラビ/TBS)は、電気店がない離島に、工業大学の学生が出張修理を買って出る。「人見知り」なオタク系の学生たちが島民たちのコミュニケーションを通して「技術」=「人を喜ばせること」という本質的な意味に気づいてゆく。「美味いは京都~料理人たちの挑戦~」(ザ・ワークス/讀賣テレビ)「京都」と「パリ」=世界の食文化の都を、それぞれの料理人が行き来し、コラボしてゆく。特にカリスマ・シェフ=ピエール・ガニエールが、老舗割烹の厨房や農家の台所に入り込んでゆくさまは秀逸。「絵金伝説~幕末土佐を生きた闇の絵師~」(かわうそ商会・NHKエデュケーショナル/NHK BS-2)「絵金」という幕末に活躍した謎の絵師。そのドロドロとした奇妙な魅力を、夏海カメラマンの映像が闇の中に浮かび上がらせる。「ズームイン!!サタデー!スピンアウト~外国人から見たサプライズ日本~」(日テレアックスオン/日本テレビ)ワイドショーの人気企画をまとめただけの番組だが、外国人へのインタビューだけで「日本」を見事に描き出す。「アレ今どうなった?」(クリエイティブネクサス・NHKエンタープライズ/NHK総合)「ヒルズ族」「負け犬」「西鉄バスジャック事件」…かつて世間を騒がせた事件や現象を再検証するシリーズ番組。眼の付け所はイイだけに、スタジオトーク以外の手法はなかったか?最優秀賞は「笑劇開演 ~小林賢太郎テレビ~」(NHKエンタープライズ/NHK BS-hi)稀代のパフォーマー・小林賢太郎の「斬新でシュールな笑い」を、おそらく小林自身が企画から参加し、大胆に映像化した。そのストイックに「笑い」を追及する姿勢に、かつての「ゲバゲバ」や初期の「ドリフ」「コント55」「タモリ」…のような懐かしささえ感じる。
最後に昨年来の“不況”による厳しい制作環境の中で、素晴らしい作品を創り出した制作者全員の意欲と創意工夫に敬意を表したい。「困難な時代」は、何か「新しいことの始まり」でもある。その「萌芽」は確実に感じられた一年だった。
「ATP賞テレビグランプリ2009」審査委員
長嶋 甲兵(テレコムスタッフ プロデュ-サ-・ディレクター)
黒沢 淳(テレパック プロデュ-サ-)
久保田 直(ドキュメンタリージャパン プロデュ-サ-・ディレクター)
天笠 ひろ美(ザ・ワークス プロデュ-サ-)
中川 幸美(クリエイティブネクサス プロデュ-サ-)